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2023/12/24

カンパーニュ

 


島の方から、「大三島には昔、鹿がいた」というお話を聞いた。鹿!大三島に、今「島民より数が多い」と言われている猪は、夜道に遭遇したり、食べたりするので馴染みがあるが、鹿がいたことは聞いたことがなかったので驚いた。今、全くいない。

パンのご予約を頂くことがある。お電話で、以前食べて美味しかったから同じものを…と思っても、名前が出てこないことがある。「カンパーニュ」は、正式には「パン・ド・カンパーニュ」、フランスの伝統的なパンで、「田舎パン」という意味だということになっている。日本において、伝統的なハードパンは、随分浸透したとはいえ、島の食卓においては、どうやって食べるのがおいしいか、いつ食べればいいか、ハードパン自体にまだまだ馴染みのない方も多い。

「カンパーニュ」は「カンパニー」。大きく焼くセミハードパンで、語源に、「共に食事を食べる」という意味がある。つまり、「一緒に食べるものを分かち合う人々を仲間と呼ぶのだ」、という、この単語には体感が詰まっているのである。

冒頭の鹿のお話。現在、大三島に鹿がいないのは、島の人が食べちゃったからである。戦後の食糧難を、島の恵みが養ったのであった。お話をして下さった方は当時小学生で、お友達と山に入って、鹿をふもとまで追うのを手伝ったそうだ。

仕留めた鹿を、大人の人が「その場で捌いて」「細切れにし」「それを人数分の山に分けた」。

言うまでもなく「カンパニー」は今、「会社」という意味で使われる。わたしの学生時代が終わって社会に出ると、日本は十分経済的に成長していたから、「会社」というのは、血も涙も無い、利潤を追求する組織だと思っていた。今、こうして、島の方のちょっとしたお話を聞きながら、もともと知っていたはずの単語が、言葉と知識がつながって、本当の意味が分かりそうになっている、いろんなものが自分の中で繋がろうとする、あ、そうか、みんなで獲ったものを、誰もに平等に分けることを、当然と感じる人たち、が、仲間なんだ。本当は、「会社」がそういう意味なんだ。それは、なんだか、とても心が気持ちが良いことで、「カンパーニュ」を切り分けながら、わたしはこのパンの意味を、この島にいるおかげでちゃんと理解できるようになってきていることを、とても有難いと感じるのです。